果樹栽培について教えてください!
品種も栽培方法も多様です
私は熊本県天草市にある果樹園で、柑橘を栽培しています。天草の特産品である「不知火(シラヌイ)」と「河内晩柑」を中心に、ポンカンや極早生みかんなど6品種を計2.5ha(ヘクタール)の圃場で栽培。シラヌイの中でも、糖度・酸度の厳しい品質基準をクリアしたものが、「デコポン」のブランド名で出荷されます。
私の果樹園では、シラヌイを「露地栽培」「ハウス栽培(屋根かけ)」「加温栽培」の3つの方法で栽培しています。屋外で日光をたっぷり浴びた露地栽培のシラヌイは甘みの強さが特徴。ハウス栽培はビニール被膜で雨風を防げるので、見た目がきれいで大ぶりの実が育つのがメリットです。
露地栽培とハウス栽培は12月から2月にかけて収穫し、しばらく貯蔵して酸味を抜いてから、糖度が増した状態で3月頃までに順次出荷します。加温栽培はハウス内を温度調整しながら育てる方法で、2月初旬からボイラーで加温して開花時期を早め、贈答用のシラヌイとして12月のお歳暮シーズンに合わせて出荷します。
もう一つの主力品種である河内晩柑は、見た目がグレープフルーツに似ていて、さわやかな甘さと香りが自慢。日当たりの良い急傾斜地の畑で露地栽培し、春から夏にかけて収穫・出荷します。こうして多様な品種や栽培方法を組み合わせながら、季節ごとにおいしい柑橘を消費者にお届けすべく、日々頑張っています。
果樹栽培について教えてください!
果樹特有の事情も……
わが家は3代続く果樹農家で、現在は私と父の2人で栽培に取り組んでいます。私は高校卒業後、東京でサービス業に従事していましたが、地域農業が高齢化や後継者不足によって衰退しつつあることを知り、「生まれ育った天草を守りたい!」との想いから、32歳でUターン就農しました。
天草で農業の担い手が減少している背景には、果樹特有の事情があります。果樹は山間の傾斜地を利用するからこそ、日照時間の長さや水はけの良さといった地の利を生かし、高品質な果実が育ちます。その反面、稲作のように平らで広い土地を利用した大規模な営農が難しく、農地の集約もなかなか進みません。
果樹は苗木を植えてから最初の収穫まで数年かかるため、収入を得るまでの時間が長く、新規参入のハードルが高いのも課題です。その課題解決に向けて、離農する農家の果樹園を若手農家や新規就農者に事業承継するなど、すでにある園地や施設を次世代へバトンタッチしていける取り組みを充実させることが必要です。こうした取り組みを通して、新たな担い手が果樹栽培に参入しやすい環境を構築することで、耕作放棄地も減少し、天草の農業を守ることにつながります。
そのためには地域の人たちの理解と協力が不可欠です。私もJA青壮年部の活動などを通じて、地域連携や仲間づくりに取り組んできました。同じ想いを持つ地元の人たちと協力し、農業を通じて地域を守りたい。その情熱が私の原動力になっています。
品質へのこだわりとは?
剪定や温度・水管理が重要!
果樹は味や香りに加え、贈答用のニーズに応えるには見た目のきれいさやサイズが揃っていることも重要です。消費者が求める品質を満たすには、日当たりや温度、水分などを、適切に管理する必要があります。
日当たりを良くするには、伸びすぎた枝や不要な枝を剪定し、日光が樹木全体に届きやすくします。果樹は隔年結果(*)が起こりやすく、年によって枝の切り方を変えて収量を調整する必要があり、その意味でも剪定は大事な作業です。
温度についても細やかな調整を行います。加温栽培の場合、冬場はハウス内の熱が逃げないようにビニールを二重や三重に貼り、ボイラーを焚いて室温を上げたり、換気扇を回して少し室温を下げたりして、開花に適した温度を管理します。逆に春夏は、暑さ対策が重要に。柑橘は気温が35度を超えると生育不良を起こしやすく、ビニールを開けたり、水を散布したりして、室温を下げる工夫をします。
季節や生育段階に応じて適正な量の灌水を行い、土壌の水分を調整することも重要です。水は与えすぎても良くないので、秋以降は灌水量を減らし、適度なストレスをかけて果実の糖度を上げます。
剪定の技術も、温度や水分の管理も、試行錯誤しながら研究を重ねています。とくに加温栽培は温度管理や水管理にかかる労力も大きいのですが、それだけに満足のいくデコポンや河内晩柑を収穫できたときは、喜びも大きいですね。
(*)隔年結果…豊作の「表年」と不作の「裏年」が交互に繰り返される現象
品質へのこだわりとは?
持続可能な農業を目指して
果樹の品質を高めれば、消費者に喜んでもらえるだけでなく、生産者の所得向上にもつながります。私の果樹園で収穫した柑橘の約8割はJAを通じて出荷され、主に東京や大阪などの大都市圏で販売されています。近年は全国で果樹農家の高齢化と減少が進み、国内の果樹生産量も減っているため、供給が需要に追いつかず、
以前に比べると果樹の市場価格は上昇傾向にあります。
ただし市場価格がそのまま農家の所得に反映されるとは限りません。
農業は自然が相手なので、どんなに努力しても出荷できない規格外品が出ますし、加温栽培は燃料費や設備の維持・更新費などのコストもかかります。
とくに最近の燃料高騰による影響は大きく、私の周りでも加温栽培をやめる農家が相次いでいます。JAあまくさ管内で加温デコポンを栽培する農家は、数年前まで20軒以上ありましたが、現在は10軒のみ。この果樹園がある牛深地区では、私たちだけになってしまいました。
それでも加温デコポンの作り手が減っているからこそ、市場では希少価値が高く、他にはない商品として差別化できます。高いコストをかけても、それを上回る価格で買ってもらえる付加価値の高い商品を生産すれば、農家の利益も増えて営農を持続することが可能です。
そのためにも温度や水分の管理など、細やかな調整や工夫が必要な日々の作業も決して手を抜かず、地道な努力を続けていきたいと思っています。
これからの農業への
想いをどうぞ!
都市と地方のギャップを解消したい
私が東京で働いていた頃に驚いたのは、都会の人が農業にとても良い印象を持っていること。実家が農家だと話すと、「農業ってすごいよね」「河内晩柑っておいしいよね」と好意的な言葉が返ってくるのです。
都会ではこれほど農業に良い印象が持たれているのに、地方では農家が減り続けている。このギャップを埋めるために何かできないか−−−−。その想いが天草に戻るきっかけとなり、現在は仲間と共に農業を通じたさまざまな地域振興に取り組んでいます。なかでも力を入れているのが、毎年4月に開催する「浅海ばんかん祭り」です。
もともとは河内晩柑を売る軽トラ市として始まった地元の行事ですが、3年前に「河内晩柑の認知度を上げるイベント」へコンセプトを転換。河内晩柑を使ったゲームや収穫体験をプログラムに取り入れ、SNSによる発信も強化して、集客数は約3倍に増えました。
この祭りを重視する理由は、河内晩柑が地域の未来を支える作物だからです。今後さらに温暖化が進めば、天草でも露地栽培ができなくなる品種が増えるでしょう。それでも柑橘類の中では高温障害が比較的起きにくく、天草特有の水はけの良い地層に適した河内晩柑なら、生産を続けやすいはずです。露地栽培できる品種があれば、コスト負担や管理の手間が大きい加温デコポンを生産するのが難しい農家も、営農を継続できます。
だから多くの人に河内晩柑の魅力を伝え、その価値に見合う値段で販売し、生産者の所得向上を実現して、新規参入や離農の抑制につながる好循環を生み出したい。そんな想いを祭りに託しています。
これからの農業への
想いをどうぞ!
地域農業を次世代へつなぐために
最近は地元の人から「天草のためによく頑張っているね」と声をかけられることが増えました。私は「ばんかん王子」を名乗ってイベントやラジオ番組で河内晩柑のPR活動をしているので、生産者から「河内晩柑を広めてくれてありがとう」と感謝の言葉をもらうことも多いですね。
少しずつですが新規就農者や青壮年部への加入者も増え、活動の手応えを感じています。
地域をさらに活性化するには、関係人口(*)を増やすことと、人や農地の受け皿を作ることが必要です。これからの時代は、本業を持ちながら、副業や趣味で農業を楽しむライフスタイルが広まると予想しています。少しずつ農業と関わるうちに「もっと広い畑で本格的に作物を育てたい」と思う人も出てくるはずです。
私の果樹園でも行政と連携した短期移住者受け入れや、国内外からの保育留学の農業体験への受け入れを行っていますが、今後は観光業などの異業種とも連携し、都市部や他地域で暮らす人が、天草の農業や農産物に触れる機会を増やしたいと考えています。同時に耕作放棄地や空き家を活用できる仕組みを整備し、農業に挑戦したい人を受け入れる環境づくりも進めなくてはいけません。
こうした仕組みづくりは、とても私一人の力でできることではありません。地域の仲間やJAと共に、地域農業を次世代につなぐため、これからも全力を尽くします!
(*)関係人口…定住・移住者でもなく、旅行者でもない、地域と多様な関わりを持つ人々