審査員からの応援メッセージ(東良 雅人)

作品制作に取り組むみなさんへ

作文・図画作品の制作に取り組む皆さんへ向けた、審査員のみなさんからの応援メッセージを紹介します。

図画部門審査会委員東良 雅人(ひがしら・まさひと)

元文部科学省初等中等教育局視学官、京都市教育委員会京都市総合教育センター指導室長
1962年京都府生まれ。1987年に京都市立中学校の美術科教諭として教職に就く。
その後、2002年から京都市教育委員会の指導主事として教育行政に携わる。
2011年、国立教育政策研究所教育課程センターの教育課程調査官及び文部科学省
初等中等教育局教育課程課の教科調査官として着任。2018年からは文部科学省
初等中等教育局の視学官を拝命し、文化庁参事官(芸術文化担当)教科調査官を併任した。現在,京都市総合教育センターの指導室長として京都市の研修などや芸術教育の一層の推進に向けて幅広く取り組んでいる。

審査にあたっていただいてきましたが、気付いたこと、感じたことはありますか?

さまざまなコンクールに携わりましたが、本コンクールの「ごはん・お米とわたし」というテーマが表現された作品には、子どもたちの「今」が表現されていました。このコンクールのテーマは、子どもたちの生活に密着した内容で、地域ごとの特色もありました。お米を作っている地域の子どもたちもいれば、配送している米を食べている子どもたちもいます。そんな子どもたちの「今」を楽しく審査させてもらいました。
子どもたちの作品からは日常が見えてきます。まさに描いた本人の分身のようです。ただ逆に、周りの大人が表現に余りに強く関与しすぎると、子どもの姿が消え、大人の姿が見えてきます。審査で気になった点があるとすれば、いくつかの子どもの作品の中に大人が描かせたい気持ちが強く表れている絵があった点です。描きたいことは子どもたちに任せてほしいと思います。

最近の子どもたちの作品について何か特徴がありますか。先生自身の子ども時代と比べてどうでしょうか?

子どもたちは作品を通じて、全身の感覚、感じ取ったことを表現します。
大事なのは子どもたちが感覚を働かせて、考えながら作品をつくることです。
この2年間のコロナ禍で社会に閉塞感がある中でも、作品からは子どもたちの頑張りがみえました。大人として、教育に携わる者としてとても嬉しかったです。
ただ、他のコンクールも含めて総じて言えることですが、なんとなく最近、子供が想像する、イメージする、こういう世界を描きたいというのが弱くなっているのを感じています。
体験活動が不足していることも気になります。自然と豊かに関わるとか、全身で触れたり感じとったりすることが不足しているのが挙げられるのではないでしょうか。
この間、子どもたちはコロナ禍で部屋に閉じこもる生活を強いられましたが、作品からは体験活動を通じて、ごはん・お米が誰かが作って家庭に送られているのが分かります。田んぼでつくっているところを写真ではなく実際に見るだけでも一人一人が違う、創造につながるのだと思います。

先生が図画に興味・関心をもったきっかけは何でしょうか?

私は子ども時代から絵を描いたり、ものをつくったりするのは好きでした。
昔の人間ですので、今のように何でもあるということはありませんでした。
ないものは自分でつくるしかありません。しかし、そこには創意工夫して身近な材料を使ってできあがったときの喜びがありました。大学は美術系の大学に入りましたが、最初は教師を目指していたのではなく、絵を描いたり、ものをつくったりしたいと思って入学しました。大学卒業後、教職に就き、美術を子どもに教えることになりました。それから、行政の仕事などを経て、美術の教科の素晴らしさに気付きました。
そして、図工や美術は自分の世界観をもつことのできる教科であることに気付きました。

子ども時代(成長期)に図画を描くことで得られるもの、喜びは何だとお考えですか?

AI(人工知能)などが進化したり、ソサイエティ5・0(サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society))がコロナで一層進んだりする中では、図工や美術で育成される感性が大切になります。学校教育で身に付ける感性は、身の回りの対象や事象、価値や心情を感じ取る力として、持って生まれたものだけではなく、創造活動を通してはぐくむものです。
図工や美術は対象の美しさ、生命観、精神的・創造的価値、目に見えないもの心や感情などを形や色などで表現するものです。そしてその中で豊かな感性が育まれます。変化の激しい生活の中で、子どもがどのような未来をつくるのかよりよいものをつくるのか、創造的に心豊かにたくましく生き抜くためにも、感性の重要性は今後より一層求められることでしょう。

子どもたちは今後、作品制作に取り組みますが、制作にあたって子どもたちに期待することは何でしょうか。

小学校1年生には1年生だからこそ感じられることや考えられることがあります。大人になって1年生の時の気持ちになるのはなかなか難しいのではないでしょうか。作品の制作にあたっては「今」だからこそ自分で感じとったこと、考えられることを大事にしながら描いてほしい。そして一人一人の子どもが輝けるように大人も子どもの「今」を大切にしてほしい。
絵の具の使い方や線の引き方などの技術面も大事ですが、それをやるだけでは自分を表現することはできません。ごはんや食に着目する、普段から関連する内容を考えさせながら、自分自身の個性やよさを磨いてほしいです。

最後に全国の子どもたちへの “応援メッセージ”をお願いいたします。

コンクールは絵を描いて終わるのではありません。コンクールを通してテーマを自分ごとに捉らえてらえて自分と社会の関連性、食の未来について考えてもらうことが大事だと思います。
絵を描くことは自分の「今」を描くことです。上手に描きたいだけでなく、テーマの中で自分を見つめてやりたいことは何かを見つけることが大事です。やらされるのではなく、やりたいことを見つけることや、描く技術を磨くだけでなく、さまざまな人との関係を注意深く見るようにしてほしい。そして形や色に着目して、造形的な視点をもっていろんなものを見つめるとこれまで気が付かなかった様々発見があることでしょう。そういうことを積み重ねて視点を鍛えることも大事です。今後もみなさんが「今」自分を表現して、感性を働かせて生み出した個性のある作品との出会いを楽しみにしています。

他の審査員からの応援メッセージを見る

審査員からの応援メッセージ

審査会委員長
尾木 直樹

教育評論家、法政大学名誉教授

図画部門審査会委員
岡田 円治

元(株)NHKアート代表取締役社長、日本美術家連盟準会員

作文部門審査会委員
設楽 敬一

(公社)全国学校図書館協議会理事長

図画部門審査会委員
岡村 泰成

美術家集団「Moss Spirits」代表、日本美術家連盟会員

作文部門審査会委員
竹村 和子

(公社)全国学校図書館協議会常務理事 事務局長

図画部門審査会委員
小柳津 須看枝

日本美術家連盟会員、元サロン・ド・トウキョー運営委員

作文部門審査会委員
堀米 薫

児童文学作家
(一社)日本児童文芸家協会理事

図画部門審査会委員
西巻 茅子

絵本作家
(一社)日本児童出版美術家連盟

作文部門審査会委員
真鍋 和子

(一社)日本児童文学者協会評議員、日本大学芸術学部講師

図画部門審査会委員
東良 雅人

元文部科学省初等中等教育局視学官、京都市教育委員会京都市総合教育センター指導室長

作文部門審査会委員
位川 一郎

農政ジャーナリスト、元毎日新聞経済部編集委員

図画部門審査会委員
郡司 明子

群馬大学教授

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