審査員からの応援メッセージ(郡司 明子)

作品制作に取り組むみなさんへ

作文・図画作品の制作に取り組む皆さんへ向けた、審査員のみなさんからの応援メッセージを紹介します。

図画部門審査会委員長郡司 明子(ぐんじ・あきこ)

群馬大学共同教育学部教授
群馬県渋川市生まれ。幼少期から美術に親しみ、学生時代に油絵、美術教育を専門に学ぶ。群馬県と東京都での小学校教員を経て、2022年度から現職。主な研究テーマは幼児の表現教育、美術科教育、身体を通じて表現すること(身体性)を重視したアート教育など、衣食住に焦点を当てた美術活動に取り組む。親子を対象にしたアートワークショップや保育者・教員向け学習会も開催。群馬県特別支援教育文化連盟顧問や全国教育美術展全国審査員などを務める。

先生にとって「ごはん・お米」とはどのようなものですか?ごはん・お米にまつわる思い出を教えてください

 私の父は、食事の際にはいつも「米を食べないと力が出ない」と言っていて、私はその言葉を聞いて育ちましたので〝ここぞ〟というときはお米を食べるようにしています。子供の頃は給食を毎回おかわりするほどで、今でもお米を食べるとおなかの底から温まり、身体全体に力がみなぎってくる感じがあります。両親からは、お茶碗のお米を1粒たりと残さず食べるように言われていましたので、私も子どもに同じように伝えています。

先生が美術に興味・関心をもったきっかけは何でしょうか?

 母が編み物教室を開いていたので、家の中には常に色とりどりの毛糸がありました。振り返ると、1本の糸から物ができる工程を見るうちに造形への興味が高まっていったんだと思います。また、幼い頃は母がさまざまなキャラクターを模したカラフルなお弁当を作ってくれていて、毎回ふたを開けるのが楽しみだったんです。母は美術が好きで、一緒に美術館へ行ったり、画集を鑑賞したりすることもありました。幼少の頃からのそういった体験や生活の中で色彩に触れていたことがベースにあったのだと思います。

こども時代(成長期)に図画を描くことで得られるもの、喜びは何だとお考えですか

 描くことの醍醐味は、世界と交わることの面白さを実感することです。人は、何かを描いたり表したりするとき、その対象について、もっと知りたいと思う意欲が高まります。そこで、よく見たり、触ったり、聞いたり、味わったりしながら、対象(主題)とやり取りをしているのです。
さらに、絵を描くことの意義は大きく二つあり、一つ目は、この世界が魅力にあふれているという体験ができることです。対象にじっくり向き合うことで、こんな形や色、質感なんだという気づき、美しさや面白さ、ものごとの本質にせまる発見、想像画であれば自分の世界を構成していく楽しさがあります。そういった世界の魅力を可視化することで、他者と分かち合える喜びもあります。
 二つ目は、自分で答えを探していくレッスンができることです。描くというのは、目で見て、手を動かして、現れたものをまた見て、考えて、修正してより良くしていくことの繰り返しです。自分の身体を通すことで、発見や驚きが自分事となる。そうすることで自分の中の納得解を得ることができるようになります。
 いまは社会が不透明で、正しい答えが得られない時代を生きていく子どもたちにとって、自分自身が〝納得できるゴールを見つけていく〟というのは大事な学びの過程です。その過程は、やがて絵を描くという行為を超えて、こうありたい自分や社会をつくり出す原動力になっていきます。

図画部門審査会委員としての思い・意気込み等をお聞かせください。

 まず、子どもの声を聴くことを大事にしたいと思います。描く際のときめきや、心の動きなど、感じて考えたことを誰かに伝えたいという声は、画面に現れます。そういった声にしっかり耳を傾けて受けとめられるように、私自身が感覚を研ぎ澄ませて臨みたいと思います。
 大人になると固定概念など思い込みで物事を見てしまっていることも、子どもは新鮮な目で捉え独自の見方や考え方で表してくれることがあります。その豊かな提案を受けとめて、良さや魅力を多くの人と分かち合うための窓口になりたいです。そして、私自身も子どもの感じたこと、考えたことに学ばせていただきたいと思います。

子どもたちは今後、作品制作に取り組みますが、制作にあたって子どもたちに期待することは何でしょうか?

 絵を描くときは、三つの対話を楽しんでほしいです。一つ目は、自分との対話です。そのときの自分の気持ちはどうだったか、何を感じ考えていたか。二つ目は、描く対象との対話。再びその世界に入り込んでみて、登場するものごととお話してみて下さい。三つ目は、他者との対話です。友達や先生など他の人の「このときはこうだったよね」などの声を聞きながら試行錯誤を繰り返し、自分で納得がいくものを描いてほしいです。
 絵を描くこと自体が、自分や回りの人たちと過去の出来事を振り返ったり、今のこの時点を味わったり、未来を思い描いたりする良いきっかけになります。描くことを通して、さまざまに対話すること自体が、かけがえのない豊かな経験になると思います。

最後に、全国の子どもたちへの〝応援メッセージ〟をお願いいたします。

 いま、日本で食をめぐる体験は、その多くがありがたいことに「おいしい」「幸せ」という言葉につながるものです。しかし、それは当たり前ではなく、先人の方々が積み重ねてくださった努力や工夫の上に成り立っています。そのことを持続的に広げていくためにも、より多くの人と食や農の大切さを分かち合える機会を持つことは大事なことです。皆さんの絵を通じて、「ごはん・お米とわたし」のことをみんなで考えてみんなで味わう、そういった機会にしていけたらいいなと思います。

他の審査員からの応援メッセージを見る

審査員からの応援メッセージ

審査会委員長
尾木 直樹

教育評論家、法政大学名誉教授

図画部門審査会委員
岡田 円治

元(株)NHKアート代表取締役社長、日本美術家連盟準会員

作文部門審査会委員
設楽 敬一

(公社)全国学校図書館協議会理事長

図画部門審査会委員
岡村 泰成

美術家集団「Moss Spirits」代表、日本美術家連盟会員

作文部門審査会委員
竹村 和子

(公社)全国学校図書館協議会常務理事 事務局長

図画部門審査会委員
小柳津 須看枝

日本美術家連盟会員、元サロン・ド・トウキョー運営委員

作文部門審査会委員
堀米 薫

児童文学作家
(一社)日本児童文芸家協会理事

図画部門審査会委員
西巻 茅子

絵本作家
(一社)日本児童出版美術家連盟

作文部門審査会委員
真鍋 和子

(一社)日本児童文学者協会評議員、日本大学芸術学部講師

図画部門審査会委員
東良 雅人

元文部科学省初等中等教育局視学官、京都市教育委員会京都市総合教育センター指導室長

作文部門審査会委員
位川 一郎

農政ジャーナリスト、元毎日新聞経済部編集委員

図画部門審査会委員
郡司 明子

群馬大学教授

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